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25話後捏造 スザク+ナナリー
あぁ、折鶴よ、
暗闇の中、長い、長い廊下を歩く。
僕は幼馴染の元へと足を運んでいた。
彼女の兄が2ヶ月前に姿を消したのだ。
彼は、黒の騎士団を率いるゼロの、正体だった。
憎しみの対象だった。
2ヶ月前、彼と対峙した時に己が放った銃弾が彼の左胸を貫通した。
溢れ出る血の赤さに、あぁ、自分と同じ人間なのだと漠然に思った記憶が残っている。
彼の放った銃弾が不覚にも脇腹に当たり、重傷を負ってしまったため、生死の確認は出来ていないがおそらく彼は死んだのだろう。
彼の遺体は見つかっていないがあれだけの傷だ。
人気のなかったあの洞窟の中では助かりようもない。
事実、あれから黒の騎士団が動いているという報告はなかった。
数週間の入院や事情聴取などで足止めをくらい彼女の元へ訪れるのが遅くなってしまった。
例え忌々しいゼロの妹だとしても彼女自身に罪はない。
自分にとってナナリーは大切な幼馴染であり、守るべき対象だった。
「ナナリー?いるんでしょ?」
開いた扉の向こうには真っ暗な闇が広がっている。
小さく呟いた己の声が不気味にその中に吸い込まれていった。
灯りの点いてないその部屋の中からは微かに人の気配がする。
おそらく彼女のものだろう。
その気配とともにかさかさと、何か紙が擦れるような音が聞こえてくる。
怪訝に眉を寄せ、もう一度幼馴染の名を呼んだ。
「ナナリー…?」
眼が暗闇に慣れてきたのかうっすらと人の形が見えてくる。
彼女らしき人物は俯いていて、その表情は暗闇と相まって見ることは出来なかった。
「…ナナ、」
「折鶴を、」
「え…」
目線を下に向けたままナナリーはその小さな口を開く。
その音はけして大きくはないはずなのに。
何故かこの空間に酷く響き渡った。
「折鶴を、千羽折れば願いが叶うと、貴方はいつか仰っていましたね」
「ナ、ナリー」
普段の彼女の温和さからは想像できないその感情のない声に、訳の解らない恐怖が身体を支配する。
そんな様子に気づいているのか、いないのか、ナナリーは気にする様子もなく続けていく。
「もう千羽どころか、1500はとうに過ぎました…っ。なのに、なのに世界は一向に優しくならない…!」
「それ、は」
「それどころか、お兄様が…っ!」
「ナナリー!それは、それは仕方なかった。だって…っ」
「仕方なかった…貴方が、私からお兄様を奪った貴方がそう仰るのですか…っ!!」
「…っ」
「私は、私はお兄様がいればそれでよかった。お兄様が傍にいて、笑ってくだされば、私は幸せだったのに…っ」
「ナナリー…、」
「返して、返してください。お兄様を返してっ!」
無感情だったその声が絶望と怒りに染まっていく。
その音が、酷く心を抉っていった。
彼女の声はそれほどまでに悲痛なものだった。
「許せない。許せません。私は、貴方が、枢木スザクが…っ」
閉じられて、けして開かれることなかったその瞳から一粒の涙が零れ落ちた。
「私は貴方を絶対に許さない」
いつも優しく迎えてくれるその声が、絶対的な拒絶と憎悪を持って僕の上に圧し掛かる。
このとき初めて自分の侵したことに罪の意識を感じた。
仕方なかった。
だって、だって優しい世界を作るには。
彼は、ゼロは邪魔だったんだ。
優しい世界を、幸せを。
造るために自分は軍のどんな仕打ちも耐えることが出来た。
死ぬことさえ厭わなかった。
誰のために?
彼の、彼らのためだ。
そう思っていた。
でもそれは、いつしか、
「違う、違うんだナナリー、僕は、ぼく、は、俺は君たちを思って…っ」
「さよなら、枢木スザク。もう二度と貴方に会うことはないでしょうけど」
その声は酷く冷たい響きでスザクを苛んだ。
ひとり残された部屋の片隅で紅く染まった白の騎士の瞳にはもはやかつての色は残ってはいなかった。
そこにあるのは絶望のみで。
その絶望に満ちた背を眺め嗤うのは魔女か、魔神、か。
いずれにせよ、どんなに嘆き哀しんでも希っても。
彼らは二度と戻りはしない。
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